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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第16回 しんくみ大賞作品・入選者

「ありがとう。」に「ありがとう。」

篠原 銀成(徳島県・中学生)

 ぼくが小学生の頃の夏、母と買い物に出かけていると、坂道をおばあさんが歩いていた。おばあさんは、リュックを背負い、片手に日傘、片手にバッグをさげていた。母が、スピードをゆるめながら通り過ぎ、
「暑いわなぁ、乗せてあげようか。でも、逆方向だし、もしかしたら、急に話しかけるのは、迷惑かもしれんなあ。」
と言っていた。でもぼくはやっぱり気になり、
「乗らんて言うかもやけど、戻って。」
と母に頼んだ。母は、
「あとで、こうしとけば。って思うよりその方がいいな。」
と来た道を戻り、おばあさんを追いかけた。
「こんにちは、もし良かったら乗りませんか。」
と母が声をかけると、
「いえいえ、大丈夫です。ありがとう。」
と言われた。ぼくが、ドアを開けて、
「乗ってください。一緒に帰りましょう。」
と言うと、
「かんまんのかな。この世にもまだこんな人がいてよかった。ありがとうございます。」
と乗ってくれた。少しの間だったけど、おばあさんは、いろんなことを話してくれて、おりる時に、
「迷惑をかけたでしょう。でも、私すごく嬉しかったし、楽しかった。ありがとう。」
と言ってくれた。ぼくも母も嬉しかった。
 しばらくして、宅配ボックスに手紙と商品券が入っていた。手紙には、あの時間が、久しぶりにすごく楽しく、嬉しい時間だったこと、人の優しさに触れて今も幸せな気持ちで過ごせていることが書かれてあった。母と相談して、一人では持ち帰るのは大変な物を買って届けようと、洗剤や醤油、ティッシュやトイレットペーパー等を買って届けに行った。
 おばあさんは、すごくおどろいた様子だったがとても喜んでくれた。なぜ家が分かったのか聞くと、ぼくと母の会話を聞いて、近所の商店で、名前に銀とつく子で柔道をしている子をたずねて、家を教えてもらったと言っていた。ぼくの家まで来るのも大変だったと思う。でも、また会えてすごく嬉しかった。
 それから、三回くらい手紙を書いたり、家に行ったりした。その度に、車に乗ったことの話をして、出会えたことで今は寂しくないと言ってくれた。
 一年経たないくらいにおばあさんは、妹さんのいる京都に引越してしまったが、今もぼくと母はおばあさんの家の近くを通ると、おばあさんを思い出す。
 どうしようか迷った時には、やめずに行動する方がいいこと、「ありがとう」には、いろんな種類があり、重みがあること、そして、「ありがとう」と言う側より言われた側の方が得るものが多く、本当は「こちらこそ、ありがとうございます」になることを感じた出来事だった。これからも、誰かの役に立てるかもしれない場面に出会ったら、迷わず行動できる人になりたい。

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