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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第16回 未来応援賞作品・入選者

親切の輪

中谷 凛(東京都・中学生)

 棚の奥にしまってある宝箱。その中にあるウサギの飾りがついたピン留めを取り出すと、ある夏の思い出が鮮明に蘇ってくる。
 小学五年生の夏休み、家の近くの湯島天神で毎年恒例の例大祭があり、友人との待ち合わせのため私は少し上機嫌で早めに家を出た。そして、早く着きすぎた私はあたりを見回して人間観察をする。すると、横断歩道で泣きじゃくる小さな女の子が目に入ってきた。何人かの大人が心配そうにしながらも、通り過ぎて行く。あたりを見渡してみたが近くに親や知り合いらしき人の姿は見えない。私はこぶしをぐっと握る。勇気を出す時の私の儀式だ。そして私は女の子に声をかけた。「ママとはぐれちゃったのかな?」女の子は泣きながら私の目を見た。小学校に行く途中見かけたことのある女の子だった。「お姉ちゃん、すぐそこの小学校に通っているんだ。何度かすれちがったことがあるんだよ!」ドキドキする心臓に「落ちつけ」と言い聞かせながら、自分の中で一番優しい声と表情を意識してゆっくりと声をかけた。女の子は泣き止んだ。「ママいないの......。」女の子はこの世の終わりのような表情を浮かべる。「じゃあ、お姉ちゃんとママが来るのを待とう。」と伝えるとコクンと頷いた。わたあめを買って来て半分こして食べているうちに、大声でその子の名前を呼ぶ声が耳に入った。「ママー!」と駆け寄って行く女の子。安心するお母さんの顔を見て私も涙が出そうになった。そしてお礼と言ってウサギのピン留めを渡された。
 私は幼稚園時代に親切にされた忘れられない思い出がある。送迎シッターの方に習い事で通っているビルの前まで送ってもらい、いつも通り上に上がって扉を開こうとしたら、扉が閉まっていたのだ。そのため下に降りると、シッターさんはいなくなっていた。私はどうしてよいか分からず泣き出してしまった。何人かの大人が心配そうに見つめながらも、私の前を通り過ぎて行く。「助けて」の一言が金縛りにあったように出て来ない。その時「大丈夫?」と話しかけてくれたおばさんの顔を忘れたことはない。リュックに入れてあった緊急連絡先カードを見て母に連絡をしてくれて、お迎えが来るまで一緒にいてくれた。
 私はこの体験が心に残っていたから、迷子の子にすぐ声をかけようと思ったのかもしれない。「三人に親切にする。その三人が別の三人に親切にする。そうすれば世界中に親切の輪が広がる」これはアメリカのある映画に出て来たセリフだと言う。母は小さい頃から「親切は親切で返していこうね」と私に語りかけて来た。今の自分があるのは自分を支えてくれる周囲の人々のおかげだ。だから私はこれからも「親切の輪」を広げていきたいと思う。

緊急連絡先