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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第16回 ハートウォーミング賞作品・入選者

最強の「処方箋」

堀山 有里子(北海道)

 喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉があるが、喉元を過ぎてもどうしても熱さを忘れられないものが私の人生の中で一つだけある。子育てだ。
 まだ子ども達が幼い頃など常に胃が痛みを訴えた。病院に行っても異常無しの診断。調べても調べても原因は見つからなかった。「子ども達を置いて入院をしなくてもいいのだ」とホッとする反面「じゃあこの原因不明の痛みは何なのだ」と更に不安が増して眠れなかった夜も数え切れない。そうでなくても子育て真っ只中は寝不足だから、本当に辛かった。せめて何か薬を、と診察を受けても一向に改善は見られなかった。
 ある日、子ども達を連れての出先で、何としたことだろう。涙が止まらなくなった。泣き止もうとすればする程、涙腺は私の意思や命令を完全に無視し、涙は流れ続けた。泣き声だけは、口を覆って何とか堪えたので人目をひくことはなかったはず......だったのだが、私達親子の方へと一目散にやって来た一人の御婦人がいた。何も御迷惑はかけていないつもりだけれど、きっと子ども達か自分への何らかのクレームだろうか、と末っ子を抱っこしたまま私が首をすくめて背を丸めていると、温かい手が肩に優しく置かれた。「ママ! 頑張り過ぎ病にかかってるやん。はい肩の力抜いてママ、大きく深呼吸~」そう言ってご自身も私の隣で大真面目にス~ハ~と深呼吸をなさる。ポカンとしていた子ども達もおもしろそうだと真似を始めて......皆で仲良くス~ハ~。あれ? 何が大変だっけ? 何を悩んで頭を抱えてたんだっけ? 私の肩の力はとっくの昔に抜け、何だか愉快になってきてプッと吹き出すや、腹の底から笑い声が出た。途端に何かが私から離れてった感じがあった。あの時私から離れてったのはきっと「良い母でなければならない病原菌」。その菌を見事追い払った「名医」は笑顔で手を振って私達親子に別れを告げた。初めて会った名も知らぬ人が私の胃を完治させてくださったわけである。もちろん「診察費」も何もお支払いしていない。それどころか驚きの連続に、御礼の言葉すらろくろく伝えられなかったポンコツぶりであった。
 末っ子が誕生日を先日迎えた。これで子ども達全員が成人した。振り返れば早かったなんてかっこいい言葉は到底言えない。充分長かったし成人したといっても数字だけの話で、まだまだ現在進行形で親の苦労は続いている。大きく育ったら育ったで幼い頃には無かった苦労がちゃんと有るのだと知った。でも私はへっちゃらだ。あの日あの時あの場所で巡り逢った「名医」の最強の「処方箋」のお陰である。ピンチの時、どうしても呼吸が浅くなりがちだ。そんな時こそ、吸って~吐いて~で乗り切る。是迄、恩送りで「頑張り過ぎ病」ママ、七名に御恩をお返しさせていただいてきた。目標は十人以上。なのでまだまだ私のアンテナはフル稼働中。十倍返しだ~! の恩送りができて初めて、あの名も知らぬ「名医」に顔向けできる気がしている。

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