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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品
第16回 ハートウォーミング賞作品・入選者
息子がくれたミッション
松本 明紀(東京都)
自閉症と重度知的障がいのある息子とよく出かけるが、正直めんどうくさい。問われても自分の名前すらいえない、信号もわからない元気いっぱいの人と出かけるのは、何かとトラブルの原因になる。怒られたり注意されたりすることは日常茶飯事である。
以前は、迷惑がかからないように、息子の動きを制御し、周りの目を気にしながら出かけていたものだ。それを、私はディフェンス型と名付けた。そのスタイルを改め、自ら攻めるオフェンス型を導入したのだ。つまり、外出時に周囲の方と目が合った瞬間に、「この人、障害があって、あやしい動きをして迷惑をおかけするかもしれません。ごめんなさい。」と笑顔であらかじめお伝えするようにした。すると、なんとほぼ百パーセントに近い確率で「大丈夫ですよ。」とおっしゃっていただけるではないか。さらに、「うちにもそういう子がいるので慣れていますよ。」や「アメ食べる?」とお声がけしてくださる方も! そんな経験を重ねるうちに、自分たちは周りに迷惑をかける存在なのだからと社会との壁を作っていたのは自分自身であったことに気づかされた。息子も親の作った壁の中に閉じ込められ窮屈であったであろう。その壁を取り払うことにより、今までは苦行であった息子との外出が、世の中の人々のたくさんの親切に出会える楽しみになってきた。そして、たやすいことではないけれど、息子のことを、自閉症のことを分かってもらうことが、同様の障がいを持つ人が社会の中で生活しやすくなる助けになるのだと確信した。私だって、自閉症や知的障がいについて、息子を育てる中で初めて知ったことばかりだ。何のアクションも起こさず、察してもらおう、わかってもらおうなどというのは百年早い。
後ろからぶつかってきた人にムッとして振りかえった瞬間に、白杖が目に入る。そして、視覚障がい者の方で前を行く自分の姿が見えなかっただけなのだと理解できれば、だれしもが寛容になれるのと同様に、息子のような人に対し、なんて非常識な人なんだと怒りの感情が起こりそうになったときに、もしかしたら障がいのある方なのかもしれないと思ってくださる方が一人でも世の中に増えてほしい。母としての命尽きるまで、そんな世の中を遺していきたい。だから、息子は障がいの宣伝部長、母はその部下として、今日も社会とのかかわりを求めて出かけていく。


