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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第16回 ハートウォーミング賞作品・入選者

小さな助け合い

佐藤 泉咲(東京都・中学生)

 学校の帰り道、最寄りの駅に着き、自宅までの道を歩いていました。ふと前を見ると、小学生の男の子が立ち止まっているのが目に入りました。
 近づいてよく見ると、その小さな体にはパンパンにふくらんだランドセル、さらに両手には大きなバッグを抱え、泣きそうな顔をしています。重そうに肩を落とし、時々荷物を持ち替えては立ち尽くしていました。
 私は一瞬、「どうしよう、声をかけたほうがいいかな」と迷いました。でも、急に話しかけてびっくりさせてしまったらどうしよう。変に思われたら嫌だなとそんな考えが頭をよぎり、そのまま通り過ぎようとしてしまいました。
 その時、私が小学生だったころのことを思い出しました。
 それは、小学五年生の終業式の日。夏休みに入るため、ランドセルの中は教科書やノートでぎっしり。さらに上履きや絵の具セット、自由研究用の材料まで抱えて、家までの道をとぼとぼ歩いていました。あまりの重さに足が止まり、途方に暮れていたそのとき、見知らぬ二十代くらいのお姉さんが「大丈夫?」と声をかけてくれたのです。
 「家は近くだから、持ってあげるよ」と言って、私の荷物を持ってくれました。自宅の近くまで歩く間、「どこの学校?」「学校は楽しい?」「宿題はいっぱい出たの?」と優しく話しかけてくれましたが、私は恥ずかしくてうつむき、ただ小さくうなずくだけ。それでも最後に「ありがとうございました」と言えたとき、胸が温かくなったのを覚えています。あの時の安心感と、お姉さんの笑顔は今でもはっきり覚えています。そして、私も
いつかあんな「素敵な大人」になりたいと思いました。
 その記憶がよみがえり、私は足を止めました。迷っていた気持ちが少しずつ勇気に変わり、引き返して男の子のもとへ向かいました。「大丈夫?」と声をかけると、男の子はびっくりしたような顔をして「重い」と小さく答えました。私は「近くまで持ってあげるよ」と言い、バッグを受け取りました。思ったよりもずっしり重く、小さな体でこれを運ぶのは大変だっただろうと感じました。
 歩きながら何か話しかけようと思ったものの、結局あまり上手に言葉が出ませんでした。それでも男の子は家の近くに着いたとき、「ありがとうございました!」と笑顔で言ってくれました。その声を聞いた瞬間、恥ずかしいけれど、とても幸せな気持ちになりました。
 まだ私は、あの日助けてくれたお姉さんのようにはなれません。でも少しだけ大人に近づけたような気がします。私はまだ中学生でこれからも誰かに助けてもらうことがたくさんあると思いますが、いつか、あのお姉さんのような大人になりたいです。

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