1. ホーム
    2. 全国信用組合中央協会とは
    3. 全国信用組合中央協会について
    4. ブランドコミュニケーション事業
    5. 「小さな助け合いの物語賞」
    6. たどたどしい手話で、あたたかい助け合い

「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第14回 ハートウォーミング賞作品・入選者

たどたどしい手話で、あたたかい助け合い

織茂 麻子(宮城県)

 数年前から手話サークルに通っている。きっかけは、私の父は仙台空襲で聴覚障害者となり補聴器をかけている。昭和16年、父が3歳の頃の出来事であった。そのため、私が小さい頃から聴こえないことの苦労など聞いてきた。父は中途失聴者のため聾学校ではなく一般の学校で学び手話は使えない。手話の世界に興味があった私は、手話サークルでの学びが楽しかった。
 そんなある日、自転車のタイヤがパンクして困っている女子高生に会った。私は声をかけると「私は 耳が 聞こえません」と手話混じりで話してくれた。私は「私は 少し 手話ができます。自転車屋さんの場所 わかりますか?」と手話と相手が口の動きを読み取れるよう大きく口を開け一言一言ゆっくりと伝えた。
 すると、その女子高生は笑顔になった。私が少し手話が出来ることに喜んでくれたようだ。そして彼女は「自転車屋の場所 わからない」と手話で伝えてくれた。私は「一緒に自転車屋さんへ行きましょう。近くです。」と手話で伝え、一緒に歩いた。
 自転車屋さんに着き、中へ入ると、ご年配のご夫婦が迎えてくれた。私は「この彼女の自転車のタイヤがパンクして」と伝えると、その後の作業について説明があった。私はその説明を流暢ではない手話を使って、一つ一つ丁寧に彼女へ伝えた。
 すると、その自転車屋のご夫婦の奥様が「美しくて、感動します」と涙を流していた。私のたどたどしい手話で、こんなにも感動してくれるとは! きっと、心と心の丁寧な会話を見たから「美しくて」と感動したのだろう。
 私は彼女に修理のだいたいの時間を伝え、店をあとにした。当時学生だった息子も一緒にその場にいたが、息子は「アイス溶けちゃったよ。でもいい場に居合わせて良かった。お母さんグッジョブ」と言ってもらった。この出来事は息子の人生の助けにもなっただろう。
 流暢でない、たどたどしい手話でも、一つ一つ丁寧に使うことが、こんなにも助けになるとは。
 そして、その自転車屋のご夫婦にも感動を与え、「美しい」と感じていただいたということはこのご夫婦の心の扉を開く助けにもなったといえる。
 その日の夜、その女子高生のお母様から電話があった。「手話ができる人で嬉しかった! と娘が喜んでいました。ありがとうございます」と。私も心が喜びで満ちあふれていた。私の方こそ、この言葉が心に染み、助けられた。まさに助け合いであると感動した。
 今後も、手話サークルで学んだ手話を、流暢でなくてもいい、心をこめて使い役立てたいと決めている。手話がわからない言葉でも表情豊かに真心をこめて伝える。小さな助け合いは真心で大きくあたたかなものとなると実感している。

緊急連絡先