1. ホーム
    2. 全国信用組合中央協会とは
    3. 全国信用組合中央協会について
    4. ブランドコミュニケーション事業
    5. 「小さな助け合いの物語賞」
    6. 想いの連鎖反応

「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第13回 ハートウォーミング賞作品・入選者

想いの連鎖反応

浅間 美月(神奈川県・横浜共立学園)

 私が中学二年生のときのこと。学校から帰る途中、電車に揺られていると、ある外国人の家族が乗ってきた。父、母、娘、息子の四人家族。その日は特別暑い日だったため、四人とも汗だくだった。車内の座席は大半が埋まっていたが、私が横にずれれば二人分の空席ができる。私は横に移動し、「どうぞ」とジェスチャーで座るよう伝えた。母親は大げさなくらい明るい笑顔を浮かべ、「アリガトウゴザイマス!」とカタコトの日本語でお礼を言うと、子供二人を空いた席に座らせた。そんなに喜んでくれるとは思わなかったため、私は少し誇らしい気持ちになった。
 隣に座った子供たちは楽しげに英語で会話していて、生の英語だ、と私は少し緊張しながら座っていた。すぐそばに立っている父親と母親は日本の旅行雑誌を広げて何かもめている様子だ。しばらくして、母親がまた私に話しかけてきた。「ギンザ? ユウラクチョウ?」と何度も繰り返している。きっと「ユウラクチョウ」にこの電車が停まるかどうか聞きたいのだろう。しかし、私は通学以外の目的でこの電車を使うことがないので、駅の名前はさっぱりだった。「ユウラクチョウ」に停まるかどうかも分からないし、それを英語でどう伝えたらいいのかも分からない。
 「アイドントノー」と言ってしまえばそれで済むことだ。しかし、私が教えてあげられなかったら、この家族はどうなるのだろう。言語の異なる知らない国で、どこに行けばいいかも分からないまま、この暑い中をさ迷い歩くことになるかもしれない。家族で日本旅行、きっと楽しみにしていただろうに。そう思うと下手に断ることもできなくて、私はずっとオロオロとするばかりだった。
 その時、「エクスキューズミー」と誰かが話しかけてきた。向かいに座っていた大学生らしきお兄さんだ。お兄さんが英語で何かを伝えると、どうやら解決したようで母親はまたお礼を言って戻っていった。私もお礼を言うと、お兄さんは「君が席を譲っていたのを見たから、僕も助けようっていう気持ちになったんだ。」と言った。何も力になれなかったと思って落ち込んでいた私は、その一言で胸の奥が温かくなるのを感じた。あの時、私がとった行動がお兄さんの心に届き、結果的にあの家族だけでなく私自身をも助けることになったのだ。私が電車を降りるとき、外国人家族は笑顔で「よい一日を!」と手を振ってくれた。
 情けは人の為ならず......人に情けをかけると、巡り巡って結局は自分の為になる。でもそれだけじゃない。助けられた側は嬉しい気持ちになるし、それを見た第三者が、自分も誰かを助けようという気持ちになってくれる。そうやって想いの連鎖反応が起きることでみんなが温かい気持ちになれる。私はその連鎖反応を起こす一人でありたい。

緊急連絡先