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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第12回 ハートウォーミング賞作品・入選者

マークとまなざし

小松﨑 有美(埼玉県)

 私には腎臓病があり、九年前から人工透析を受けています。重いものは持てず長時間の立位維持も困難です。目眩や動悸もしょっちゅうです。ただ内部疾患のため傍目からは全くわかりません。そういった理由で普段はヘルプマークをつけて電車に乗ります。
 あれはまだヘルプマークができたばかりの八年前。私が電車に乗ると私立の小学校に通う子ども達が「何それ?」と目を丸くして近寄ってきました。中には「かわいいキーホルダーだね」と言ってくる子もいました。私が「外からは見えない病気やケガで手助けを必要としている人がつけるんだよ」と言うと、表情は一転。座席に座っている子に「座らせてあげて」と言ってくれました。言われた子も「どうぞ」と小さな手をこちらに向けてくれました。何て素晴らしい子ども達なのでしょう。その後もマークを見るなり「あ!それ学校で習った」と言いながら「ここどうぞ」と声をかけてくれる子ども達。おかげで電車通勤が苦ではなくなりました。
 あれから八年。当初に比べるとヘルプマークは大分知られるようになりました。駅やスーパーでも「お困りごとはありませんか」と声をかけてもらい、横断歩道では買い物袋を持ってもらうこともあります。感謝です。
 しかしこの前不注意でマークをつけるのを忘れ、電車に乗った時のことです。車内は中央線の遅延で混雑しています。しかし十五分もすると血圧が下がり、目眩と激しい吐き気に襲われました。たまらず私が両手で口元を覆うと「だいじょうぶですか」とちいさな声が。ランドセル姿の女の子でした。私が首を横に振ると「すみません! ぐあいのわるいひとがいます」と声をあげてくれました。感動です。こんなに混み合った車内でこんな小さな異変に気づくなんて。今でも声をかけてくれた時の真っ直ぐなまなざしは胸に焼きついています。
 透析患者となって九年。最初は外に出るのも気が気ではありませんでした。しかしヘルプマークをつけることによって、関心と支援の輪は徐々に広がりました。マタニティーマーク。ヘルプマーク。ハート・プラスマーク。耳マーク。補助犬マーク。その他、世の中にはまだ知られていないマークがたくさんあります。だけどマークがなくても、表情や心をしっかり見てくれる人はいるものです。それがちいさな子なら尚更です。
 大切なのは「どんなマークをつけているか」ではなく、「どんな表情で、何を必要としているか」です。この先どんなマークが社会に出ようとも、心をしっかり見てくれる子ども達がいる限り、この国の未来は明るい。
 子ども達のまなざしはそれを教えてくれました。

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