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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第12回 ハートウォーミング賞作品・入選者

異国の列車から日本の街角へ

村上 咲子(神奈川県)

 「終わった。」そう思った。フランスの片田舎に緊急停車した列車の中で私は一人、ただ頭を抱えていた。
 二十歳の冬、大学の仲間とフランス旅行に行った。その旅行中、一日だけ仲間と離れた日のことである。私にはフランス留学中の旧友がおり、その子に会いに行くと決めていたのだ。私の訪問先はパリから列車で三時間の場所で、そこまで一人で向かうことになっていた。フランス語はからきし分からなかったが、目的地までは列車一本。何とかなると思っていた。リュックを背負い、パリから列車に乗り込んだ。寒い時期で、地元客だけ乗っているような静かな列車だった。
 列車出発から一時間ほど経過した頃、事件は起きた。ある駅で列車が突然動かなくなったのだ。乗客はザワつき、フランス語でアナウンスが流れた。内容は分からなかったが「セパレート」という単語が聞き取れた。どうやら列車が分裂し、行き先が変更されることになったようだ。泣きそうな顔でオロオロしていると、白髪のおじいちゃんが声をかけてくれた。終始フランス語で何を言っているのか分からなかったが、助けようとしてくれているらしい。手で四角を作り、しきりに私に見せてくる。パニックで何のことか分からずにいると、近くにいた少女がこちらを見て一言、「チケット」と言った。おじいちゃんは、私に切符を見せろと言っていたのだ。切符を手渡すと、にっこり笑って列車の座席シートをポンポンと叩いた。私の目的地は車両移動の必要がないらしい。少女とおじいちゃんに「メルシー」と言うと、少女は照れ笑いし、おじいちゃんはパチリとウインクをした。
 ほんの数分の出来事だったが、旅行の大きな思い出となったことはもちろん、私に成長をもたらす瞬間になった。それまで私は困っていそうな人がいても、余計なお世話かな、と勝手に不安がり、自ら手を差し伸べることが出来なかった。しかし、それは間違いだ。助けるならばスマートに助けたいと思うのはこちらの勝手で、受け取る側はそんなこと気にしない。また、私が最初の一歩を踏み出すことで、今回の少女のように更なる援護者が出て来てくれることだってあるのだ。
 先日、仕事中に男性と高齢女性が道端で揉めている場面に出くわした。私は自転車で横切っただけだったが、何となく違和感を覚え、その場に戻って声をかけた。男性は逃げるようにその場を離れ、残された高齢女性の震える手には大金が握り締めてあった。後に分かったことだが、その男性は詐欺の受け子だったのだ。女性からは感謝され、警察からは表彰状までいただいたが、私が勇気を出せたのは、フランスで出会ったおじいちゃんのおかげである。フランスのおじいちゃんは、私を通して日本のおばあちゃんまで助けることに成功したのだ。小さな勇気が人を助ける。余計なお世話上等。もし迷惑がられたら、その時軽やかに引き下がれば良いだけだ。

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