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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第12回 しんくみ大賞作品・入選者

もらったバトンを渡してるだけ

山田 のりこ(兵庫県)

 え、手があがらない。まぶたもあがらない。ありとあらゆる体の筋肉が自分の言うことをきかない......。突然そんな難病にかかった。それまでお産と歯医者以外ほとんど医者いらずだった私は七年前重症筋無力症と宣告され、ほぼ寝たきり状態になってしまったのだ。
 日常の家事は夫や子どもたちがなんとかこなしてくれたが当時高一だった娘のお弁当作りまでは到底手が回らなかった。当時仲良し四人組でお弁当を食べるのが娘の楽しみだったが仕方ない。でも一人ぼっちで学生食堂に行く娘のことを不憫に思ってくださった娘の友達のお母さんから突然ラインが届いた。 
 「お弁当一つ作るのも二つ作るのも一緒です。もしよければお嬢さんの分のお弁当も私に作らせてください」と。思い出すだけで目頭が熱くなる。そんな厚かましいことお願いするのもどうかと思ったが、いろんな我慢や苦労を強いていた娘のことを気遣ってかけてくださったお言葉だ。温かいご厚意に甘えさせていただくことにした。そのお友達と理系と文系でクラスが別々になるので、娘は高二からは自分で作ることにしたが、結局三学期の間一日も休まずにおいしい手作りのお弁当をいただくことになった。一生治らない難病とも言われ、何度泣いたことかわからないが、このように親身に私たちを助けてくださったたくさんの善意に支えられて私は数年後元気を取り戻した。
 人生山あり谷あり、時として地獄に突き落とされるように思う日もあるが、周りに仏さまのような人がいると救われるということをしみじみと実感した。
 それから六年後、次男の同級生のお母さんが末期がんときいた。私は思わず「私もお弁当が作れないときに助けてもらいましたので......」とラインを送った。やっとその時のご恩を返せるときがきたように思ったのだ。
 「いつもおいしいお弁当に息子も大喜びです。おかげさまで体はきついですが、のりこさんの大きな気持ちに包まれていることを感じます。心より感謝しています」とお亡くなりになる十日前にも丁寧なラインをもらった。思えばお別れのご挨拶だったのかもしれない。
 お弁当を作り始めてから二年目を迎えた。学年懇談会などで学校に行くと、何人かのお母さんたちから「今もお弁当作られてるって、すごいですね」とか「頭が下がります」といわれることもある。でも私は自分が苦しくて辛かったときにいただいて救われた思いやりのバトンを次の人に渡しているだけ。大きなことは何もできない、ただお弁当を二つ作るだけ。
 今朝も息子と同級生用に同じお弁当を二つ作った私は、こんな難病患者でもできることがあると思うだけで生きている喜びを感じている。こんなささやかなことでも大きな生きがいとなっているのかもしれない。

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