1. ホーム
    2. 全国信用組合中央協会とは
    3. 全国信用組合中央協会について
    4. ブランドコミュニケーション事業
    5. 「小さな助け合いの物語賞」
    6. ハギレのキズナ

「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第11回 しんくみきずな賞作品・入選者

ハギレのキズナ

感王寺 美智子(福岡県)

 東日本大震災後から五年、災害公営住宅が次々と完成し、私が暮らす仮設住宅の住民たちも、もう八世帯ほどになっていた。
「申し訳ねえけんど、なげる(捨てる)しかねえべ」
 集会所の押入れに、山になった古着を眺め、自治会長さんが、ため息をつく。全国の皆さんが、送ってくれた古着だ。大変ありがたいものだが、中には、状態のよくない物や、普段着るには派手な物もあり、貰い手がないまま、残されてしまっていた。でも、皆さんからの善意は宝物と、大切に保管していた。「ごめんなさい。かんべんね」
 謝りながら、大きなゴミ箱に、洋服を詰め込みはじめた。すると、住民のキクチさんが、ハサミを持って来て、古着を、ザクザクと切り始めた。
「捨てるなんて、バチがあたるっちゃ」
 汚れやホツレ部分を避け、上手にハギレを、とっていく。
「みんなで、何か作るっちゃ。おらたちは、助かった命を、新しい命をもろたと思って、大事に生きていかねばなんねえ。この古着たちにも、新しい命をくれてやんねばな」
 最初は、コースターを作った。針仕事が苦手な私でも、お喋りしながら、簡単に作れた。「男だがらってなめんなよ。オラは、魚の網の修理をやってただ」
 自治会長さんが、ごっつい指で、スイスイと針を進めるのには、驚いた。作った小物は、来てくださったボランティアさんたちへのプレゼントにした。
 熊本地震がおきた。
「よし、防災頭巾さ、作って送るべ!」
 今度は、少し難しかったが、同じ被災地への思いが針を進め、沢山の防災頭巾が、できあがった。
 そして私は、その後、その熊本へ、復興支援を繋げるために引っ越した。
 九州北部豪雨で、大きな被害を受けた、朝倉市の民家へ、泥かきに行った時のことだ。
 作業するボランティアさんの中に、防災頭巾を被っている人達がいた。その布柄に見覚えがある。気になって、チラチラと見ていると、ひとりの女性が、顔を上げて、こっちを見て叫んだ。
「気仙沼のおばちゃ~ん!」
 仮設住宅へ、ボランティアで来てくれた、学生さんたちだった。互いに、泥だらけなのもかまわず抱き合い、肩を叩き合った。
「がんばっぺ!」
「うん、きばるっ!」
 彼女たちが被っている防災頭巾は、沢山の人の服のハギレでできている。
 被災地を思う、沢山の人の心が、縫い合わされて、できている。
 縫い合わされたハギレたちは、一枚の強い布となり、明日をつくっていくんだ。

緊急連絡先