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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第10回 入選青少年部門

小さな旅の小さな助け合い

伊藤 さやか(福島県)

 私にはこの夏、久しぶりに電車に乗る機会があった。学校までは母が送迎してくれているので、めったに電車に乗ることはないが、この時は、祖父母宅に行くために一人で電車に乗っていた。
 すると、大きな荷物を持った御婦人がホームから車内に入ってきた。乗客は少なくなかったが、座る場所はあった。しかし、その御婦人は大きな荷物を持っていたため、座ることができないように見えた。一般的に見ると、荷物を上の棚に置けば座ることができるだろうが、その御婦人は背が低いため、自分の力で荷物を持ち上げることは難しいようだった。私は、そんな御婦人の姿を見て手を差し伸べずにはいられなかった。その御婦人に声を掛け、荷物を上の棚に置いても大丈夫かを尋ねた。御婦人は少々驚いていたが、すぐに笑顔で「ありがとう。」と返してくれた。誰かと話しながら祖父母宅に行くのは初めてだった。それから一時間程度の道中、私と御婦人は会話を楽しんだ。祖父母宅まで約一時間半かかる電車での道のりは、普段は退屈でしかなかった。しかし、私と御婦人は高校の話をしたり、部活動の話をしたり、祖父母の話をしたり、本当に楽しい時間を過ごした。御婦人が先に降りるため、近くなった頃に棚から大きな荷物をとって渡した。降りる間際には、黒飴を五つ貰った。そして、もう一度「ありがとう。」と笑顔で感謝の言葉まで貰った。その時、少しさみしい気もしたが嬉しかった。
 祖父母の家に着き、電車であった話をした。二人ともとても嬉しそうに話を聞いてくれた。祖父母の家には長期休業の時にしか行けないので、目一杯手伝いをしてきた。祖父母に「ありがとう。」と何度も言われ、とても嬉しかった。
 祖父母宅への道のりは「ありがとう」の一言で、人の気持ちは大きく変わると言うことを実感できた、ミニ旅行だった。また、助ける・助けられるのはお互い様で、御婦人の役に少しなれたと思うが、私にとって御婦人も道中の助けになったのだと思う。長い電車での退屈な道のりが、御婦人との会話のお陰で、楽しく、おもしろく短く感じたこと。祖父母が嬉しそうにして話を聞いてくれたこと。たった一つの勇気ではじまる笑顔がこんなにもあることを知った。勇気を出して行動すれば、たくさんの笑顔を見られることに気づいた旅だった。

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