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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第10回 入選一般部門

七年目のナス

吉田 久美(岩手県)

 この町に引っ越してきたのは、七年前のことだ。娘は三歳、息子は生後六ヶ月だった。ご近所に挨拶回りに行った日のことは、鮮明に覚えている。
「よろしくお願いします。」
 のしを付けたキッチンタオルを配りながら、ここの人達とどんなふうに関わって生活していくのか、その時は緊張していて想像もできなかった。
「若い家族が来てくれて嬉しいわ。」
「子どもの声が聞こえるのっていいね。」
 この辺りは高齢者が多く、おばちゃん達はうちの子ども達を本当の孫のように可愛がってくれた。花や野菜に水をやりたいと言えばやらせてくれたし、動物の世話も手伝わせてくれた。親が与えられないような体験を、たくさんさせてもらっている。
「やっと実をつけたのよ。鳥さんにやられる前に食べて。」
 ブルーベリーや苺が色付くと、保育園の帰りを待って取らせてくれた。娘は自分のが少なくないか真剣に数えていたし、息子は洗うのを待ちきれず食べていた。そんな光景を、優しい笑顔で見守るおばちゃん達。いつももらってばかりで申し訳ないと、たまにお礼の品を買っていくと、「そんなことしないの。」と叱られる。やっぱり、さりげなく「うちのもどうぞ。」と野菜や果物のお裾分けがしてみたい。家の脇の狭いスペースで家庭菜園を始めてみたが、なかなかうまくいかなかった。
「去年のトマトは酸っぱかったし、オクラは枯らしたし......。日当たりですかねぇ。」
「水のあげすぎなんじゃない?」
 色んな人のアドバイスを受け、夫が土の成分を調べる薬を買ってきた。その甲斐あってか、娘が四年生、息子が一年生になった今年立派なナスがやっと実をつけたのだ。
「わぁ、やっとお返しができるね。何年かかったんだろ。」
 可笑しさと感動が、じわじわとこみ上げた。
「チーちゃんちに届けてくる!」
 朝晩の水やりを欠かさなかった息子が、ナス一本を握りしめて三軒先まで走った。真っすぐ駆ける後ろ姿は、いつのまにか頼もしくなっていた。
 翌日、おばちゃんからお礼を言われた。
「やっとできたナスもらっていいのって聞いたら、いいんです!失礼しますっておじぎしたのよ。なんと大人になって、ウフフ。」
 いつもすぐ泣いたりすねたりしていた息子の姿を知っているだけに、おばちゃんも嬉しそうだった。
 今年獲れたナスは、ご近所のみんなの知識の集結と、わが家の成長の証だ。お世話になった人達に恩返しができる幸せを感じた七年目の夏。もらったり育てたりした野菜は、子ども達の成長にとって何より心の栄養になったにちがいない。

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