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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第10回 優秀賞一般部門

支えられて前へ

飯森 美代子(長野県)

 私は三十三歳の時から五十歳までの十七年間、脳梗塞で左半身まひになった母を介護し、みとった。私は小学生の頃から母と二人で暮らしてきた。私が介護を始めた頃は、まだ国の介護保険制度はスタートしていなかった。スタートしてからも母は「他人の世話になりたくない」と利用を拒んだため、私はやむなく一人で介護をした。介護が長引くにつれ、ご機嫌伺いに訪れる人もいなくなり、私たち母娘は孤立を深めた。このまま母を置き去りにして逃げてしまおう、と思ったことも一度や二度ではない。でも何とか無事に介護を終わらせることができたのは、私が懸命にがんばったからだ、と思っていた。
 ところがある時、介護をテーマにした映画を見て気づいた。私一人で介護をやってきたつもりでいたが、そうではない。本当は多くの人に支えてもらっていたのだ、と...。
 勤務先の上司は、私の愚痴を黙って聞いてくれた。心の内を吐き出すと、こんなにも気持ちが楽になるということを初めて知った。同僚たちは、私の身体を気遣って栄養ドリンクやパンを差し入れてくれた。
 母が入退院を繰り返していた時は「付き添いお疲れ様です。元気出してください」と、今は珍しい二千円札をおつりに差し出してくれた、顔見知りのコンビニの店員さん。ちょっとしたサプライズに張り詰めていた気持ちが和らいだ。また、母の病状が後退し、入院が長引いて心細かった時「昨日より顔色がいいよ。大丈夫、良くなってきているよ」と、毎日励ましてくれた掃除のおばさん。
 近所の犬の声を私の泣き声と思い込み、早朝から駆けつけてくれた西隣の高齢のご夫婦。勘違いに気づき三人で大笑いしたけれど、嬉しくて涙があふれた。
 そして母亡き後、一人暮らしになってから私は喪失感で心が折れ、家に引きこもるようになってしまった。そんな私を気にかけ「この頃姿を見かけない。一人になって気落ちしているかもしれないから様子を見てほしい」と役場に連絡を入れてくれた人。その連絡を受けて駆けつけてくれた民生委員会さん...。いろんな人にお世話になり、今も支えてもらっていると実感できた。
 そんな様々な事柄が、一度折れてしまった心の≪芯棒≫の添え木になってくれたのだ。私は母を亡くして一人になった。けれど一人ぼっちではない。私のことを気にかけてくれる人たちがいてくれる。「ありがたい」と思った瞬間、私の心の中にあった感謝の泉が湧き出し、生きる希望になったのだ。
 今、私の周りには高齢の人が多い。ほんの少しでいいから、心に寄り添えるような恩返しがしたいと思う。「買い物に行くけど、一緒にいかない」「困ったら夜中でも電話してね」と声をかけている。
 こんな私でも頼りにしてもらえる。それが今の私の生きる原動力になっている。

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