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「小さな助け合いの物語賞」受賞作品

第9回 優秀賞一般部門

小さくて、大きな力

佐野 由美子(三重県)

12月のある日、仕事帰りに実家へ立ち寄ると、父の様子がいつもと違った。

「どうしたの?」

と聞くと、

「急に右足に力が入らんようになったんや」

との返事。

えーっ!? と私は不満をあらわにした。二種類の気持ちだった。

『なんで、もっと早く連絡してこないの!?』

『急に言われても明日仕事を休めないよ』

の二種類だ。父は私の不機嫌を感じとり、

「大丈夫や。どこも痛くないし」

と取り繕った。

父はよく太っていて、たまに腰痛から歩行困難になることもある。なので今回もまたそうだろうと、高を括った。

「じゃあ、週末にでも整形外科へ行こう」

そう言って帰ってしまった。次の日は仕事が長引いて実家へ行けず、電話で様子を聞くと、

「なんか、ちょっと良くなってきたわ」

との返事。そう、良かったねと安心した。それが大きな過ちだったと気付いたのは翌日だ。翌日の夕方、実家へ寄ると――。父は右足を完全に引きずり、腕の力だけで家の中を移動していた。慌てて病院へつれて行くと、脳梗塞がみつかった。

ほんのちょっとした出来事で、生活は一変してしまう。父は一人暮らし。母は遠い昔に亡くなって、もういない。そのうえ私は一人っ子だ。私が面倒を見るしかない。――それは、わかっている。だが、そうなると仕事は続けられない。夫にも、しわ寄せはいくだろう。「介護離職」「介護離婚」「たそがれ同居」......という言葉が頭をよぎった時、私に助け手があらわれた。実家の近所に住む老人たちだ。

「病院くらい、オレが車に乗せてったるわ」

「リハビリの付き添いも、まかせとけ」

「買い物も連れていったるで、いつでも言うたらええ」

そう、ぶっきらぼうに申し出てくれた。すべて齢80歳近いお年寄りだ。だがみんな、ハツラツとしていて頼もしい。

「気にすることないよ。お父さんも元気な時は、よく人の買い物してあげてたのよ。困った時はお互いさんよ」

人の良さそうなおばあさんが、こっそり教えてくれた。そうなのか。父はそんなこと、私に一言も言わなかったのに。人助けしてたんだ......。ちょっぴり目頭が熱くなった。

近所のお年寄りのおかげで、私は仕事を辞めなくて済んだ。父もリハビリで順調に回復し、生活も今まで通り。小さな田舎町の小さな老人集団の、大きな大きな力。助け合う心に頭が下がる。私も笑う余裕が出てきた頃、

「それでええの。子どもが幸せそうに笑っとるのが一番の薬なんやでね」

大根の煮物を届けてくれたおばあさんの言葉が、心にしみた。

(原文のとおり掲載しております。)

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