小さな助け合いの物語賞

《青少年部門》

優秀賞(2編)

最大のチャンス

森山 ひかる(千葉県)

今年の夏ほど、泣いた日はなかった。

吹奏楽の甲子園と言われる吹奏楽コンクール。この舞台に立てるのは、私の所属する浦安中学校吹奏楽部全員ではない。今年は出場出来ない人が十一人になる。

オーディションの日。私は、この十一人の中に入った。ぼう然としている私の前で、次次と合格者の名前がよばれる。これみよがしに喜び、抱きあい、ハイタッチをしていく。この場所から逃げ出したかった。

次の日、オーディションに落ちた十一人が先生によばれた。

「悲しいですね。悔しいですね。この気持ちは落ちた人でないとわかりません。うれしそうにしている仲間達を見てどう思いましたか。受かった人がいるということは、その代わりに落ちた人もいるということ。この人達の気持ちによりそえる人になりましょう。にくたらしいかもしれませんが、コンクールで金賞を受賞するには、あなたたちのサポートにかかっています。もしかするとサポートするのは最初で最後かもしれません。まさに最大のチャンスです。チームのためにサポートして下さい。期待しています。」

先生の言葉に救われた。そうだ、一番の目標は金賞をとることだ。

私は、いすを並べたり、楽器を運んだり、テキパキと働いた。本当は、チームのためではなかった。そうでもしないと、心が折れそうだったからだ。

しかし、そのうちにメンバーの一人、また一人から

「ありがとう。」

とお礼を言われるようになった。素直にうれしかった。頼まれごとや、たわいもない話をしてくれるようになった。そうすると、これまでの悔しい気持ちから、応援の気持ちに変わっていった。離れていた気持ちが、だんだん一つになっていくのを感じた。

コンクール当日。朝からずっと祈っている自分がいた。こんな時にしか神仏を敬わないのだが、不届者と言われても祈らずにはいられない。思いつく”精一杯”だから。

発表の瞬間。ずっと学校名がよばれていなかったので、九割あきらめていた。しかし、演奏の内容が良かったので、皆もしかして…という気持ちも一抹はあった。

金賞の最後。キリスト教、仏教、様々な手の合わせ方で皆で祈る。その思いが通じたのか

「浦安中学校」

と学校名が発表。会場が声で破壊されてしまいそうなくらいの歓声があがった。

「サポートありがとう!」

次々と届けられる、ありがとう、の言葉に、私の方こそ、と心の底から思えるようになった。

一つ成長した、十二才の夏だった。

(原文のとおり掲載しております。)