小さな助け合いの物語賞

《一般部門》

入選(3編)

支え合う杖

坂之下 絵里(宮崎県)

私が白杖を使い始めたのは最近のことだ。

持病で暗い場所が見えない。学生の頃は夜出歩く際は人と一緒が多く、不便を感じることは殆どなかった。それが社会人になると自由になるお金が増え、ライブ鑑賞が趣味の私はしょっちゅう県外へも足を運ぶようになった。ライブの開催はその大半が夜である。そうなると会場への行き帰り、手探り足探りの状況が増えてくる。それを打破するための白杖だった。

先日参加したライブの、帰り道のことである。夜も大分回った頃は、都市部といえども薄暗い。なるべく宿代を浮かせたい私のような者が泊まるホテルは、大概が小さな路地に奥まって建っており、非常に探しづらい。スマホの地図を見ながら歩いたが、目的地周辺に着いてもそのホテルがない。恐らく通りが違うのだろうが、ここからが難しい。小さな路地を逃さぬよう、杖先と、音や空気の流れを頼りに、歩を進める。近くの筈なのに、遠い幻を追いかけている気分になってくる。目的地の場所が分からないと、疲労度は増す一方で、早く見つかってくれ・・・と弱気になった時だった。

「もしかしてお困りですか?」

女性の声で呼び止められた。白杖を携えてから、そんな風に声をかけられたのは初めてだった。驚いたが、正直に事の顛末を話してみた。その方は相槌に心配をにじませ、私の話をゆっくり聞き、スマホの地図を確認してくれた。

「ここがあの病院だよね。うーん、ちょっと待ってね」

そう言うと、女性は大きな声で離れた場所にいるのであろう男性を呼んだ。すぐに彼も駆けつけてくれ、多分こっちだ、という方向へ、三人で歩く。右隣の女性と腕を組み、左隣に男性の存在を感じながら。

道中、という程でもない距離の間も、楽しく話をした。二人は少し前から、ふらふらと歩く私を遠目に見ていたらしい。

「大丈夫かな、って話しながら暫く見てたけど・・・やっぱり困ってそうだから、声かけちゃいました」

女性はそう言って笑う。私も心がほどけて、やっと笑顔になれた。さっきまで暗闇の底を彷徨っていたのが嘘みたいに、お腹がぽかぽか温まるようだ。その温もりも一緒に連れて歩くと、ホテルの看板が見えてきた。建物の明かりで、二人の顔がやっと照らし出される。人懐っこそうな目をした女性と、体格のいい男性が、にこにこ笑いながら立っていた。この二人の目が見守ってくれていたんだ、と思うと、既に終わったことなのに、安心感で胸が一杯になる。丁寧にお礼をして、最初で最後のさようならを言った。

白杖を持つ時、本当は抵抗があった。世間では白杖は全盲の人が持つもの、というイメージが根強いからだ。でも今回の経験で、私は人の優しさに触れることができた。彼女らに会うことは恐らく二度とないだろう。でもそれでいい。助け合いはその場限りでは終わらない。温かいものを受け取った、次は私が誰かを支える番なのだと思う。

(原文のとおり掲載しております。)