小さな助け合いの物語賞

《一般部門》

優秀賞(2編)

情けは世界の回りモノ

星野 有加里(宮崎県)

新婚旅行でピサの斜塔を訪れた後、フィレンツェへ戻ろうとして駅に着くと様子が変だ。

イタリアの冬は夕刻になれば真っ暗。照明も灯らない暗い駅には人影もなく、一人の駅員も見当たらず、電車が来る気配すらない。

「もう電車はないの?どうしたらいいの・・・」

途方に暮れていると、現地の老夫人が通りがかった。私は慌てて拙い英語で話し掛けた。

「フィレンツェ行きの電車はありますか?」

だが英語は通じず、老夫人はイタリア語で返してくる。私達はイタリア語は話せない。でも、イタリア語は通じないと老婦人に伝わった後も、諦めず何十分も一生懸命イタリア語で話し続けてくれたのだ。異国の暗い駅で、困っている東洋人をこのまま見捨てる事はできないといった顔で。その気持ちは痛い程有り難かったが、老夫人にも用事があるはず。これ以上私達に付き合わせる訳にはいかない。「グラッツィエ(ありがとう)」とお礼を言い、立ち去ろうとした時、ちょうど若い男性がやって来た。老夫人がイタリア語で男性に話し掛けた。「フィレンツェ」という言葉だけが聞き取れた。私が連呼していた「フィレンツェ」は伝わっていたようだ。男性は私達に英語で丁寧に説明してくれた。「ストが起きて電車が止まっている。大抵は、一、二時間で動くからノープロブレン!」と陽気に笑った。事情が分かっただけでも安堵し、二人に丁寧にお礼を告げた。

老婦人と男性と共にホームのベンチに座って電車を待っていると、一時間程で電車が来た。男性も乗り込み、老婦人も乗るのかと思いきや、乗らなかった。私達の乗車を見届けると笑顔で手を握り、ホームを降りて行った。

「私達の為に一緒に待っててくれたんだ・・・」

「通りすがりの外国人の為に、一時間も・・・」

何て優しい人なの。私と夫は顔を見合わせ感動し合い、名も知らぬ老婦人に、遠ざかる電車の中で心からの「グラッツェ」を捧げた。

数駅目で電車が停車した時、男性が「着いてきて」と立ち上がった。男性に続いて降りると別のホームへ渡った。停車中の電車に、「これに乗れば、さっきの電車より早く、フィレンツェに着く」と教えてくれた。男性は電車には乗らず、「ボン・ヴォヤージュ!(良い旅を)」とクールな笑顔を残し、颯爽と元のホームへ戻った。私達が早くフィレンツェに着くようにと、わざわざ電車を降り、連れてきてくれたのだ。「イタリア人、優しすぎるよ・・・」感激の余り涙ぐんでしまった。それ位私達は言葉も通じない異国で心細い思いをしていたのだ。でも、言葉は通じなくても、困っている異国人を何とか助けようと親身になってくれた老婦人や、労を厭わず電車を降りてくれた男性に幸運にも巡り合う事ができ、お陰で私達は救われた。

情けは国境を超える。夫婦になって一週間。心優しき異国人に感謝しつつ、目と目で通じ合った私と夫の想いは間違いなく同じだった。『私達、今日の出逢いを忘れずに、困っている人に出逢ったら、迷わず手を差し伸べようね』

(原文のとおり掲載しております。)