小さな助け合いの物語賞

《一般部門》

しんくみ大賞(1編)

 どうぞの傘

橋 浩美(岡山県)

「うん?雨の臭いがするよ!」

私の鼻センサーはとても敏感です。我が家が経営する仕出し店の中は常に煮物や揚げ物焼き魚の臭いがしています。でもアスファルトで舗装された道路に雨粒が落ち始めた時の何ともいえないムワッとした臭いは外を見なくてもわかります。

近頃の気象は異常といっていい程各地に集中豪雨をもたらし被害も多く出ていて、報道等で見たり聞いたりする度に胸が痛みます。

私の住んでいる所でも時にはバケツをひっくり返したような雨が降る事もありとても不安な気持ちになります。

それと同時に通学路にもなっているお店の外が急に気になり始めます。それは「どうぞの傘」の出番になるからです。

あれは十年以上前の事です。まだ娘が小学校低学年の頃です。通学する時にもし雨に降られたら可哀想だと思い毎朝必ず天気予報を確認して雨の予報が出ていたら傘を持たせていましたが、その日は晴れマーク!!傘を持たずに登校していきました。

午後になり相変わらずバタバタと仕事をしている時にいつもの鼻センサーが働きました。「うん?雨の臭いがする」慌てて外に出てみると案の定大粒の雨が降ってきました。

「あ!傘を持たせていない」私は慌てて傘を持って外に出ると向こうの方からこちらに向かって歩いてくる娘の姿が見えました。そして何故かその手には透明なビニール傘が握られています。おまけに娘の顔はとっても嬉しそうで笑顔で溢れています。

「お帰り!その傘どうしたん?」

「あのね、校門を出てちょっと歩いた所で急に雨が降りだして困ったなあと思っていたら前の家のおばちゃんが

「この傘どうぞ」って貸して下さったんよ」と教えてくれました。

「あのねお母さん、私一人で困っていた時にやさしくしてもらってとても嬉しくて心がほわんって暖かくなったよ。心がニコニコになったよ」とも話してくれました。

私は近年見て見ないふりをしてしまう大人が増えている中で善意を下さった方にとても感謝しました。それと同時に娘にも今回味わった心がほわんと暖かくなる気持ちをいつまでも大事に、そして今度は他の人にも届けていってほしいと思いました。

勿論後日娘とその方のお宅に伺いました。乾いた傘と娘のお礼の手紙を持って!!

それからです。その方の心に少しでも近づけるように私たちのお店でも始めました。急な雨に降られた時の「どうぞの傘」

近頃の子どもには少しお節介で面倒臭いと思う事もあるかもしれないけれど、あの時の娘のようにちょっとでも「ほわん」と暖かい気もちになってもらいたくて、これからも

「傘、持って行きなさい」

と声をかけ続けていきたいです。

(原文のとおり掲載しております。)