小さな助け合いの物語賞

入選(4編)

ある雨の日の路線バスにて

服部 直志 (静岡県)

『どうしたんだよ?なんとか直せないの?お姉さんプロだろ?ああ?やっぱり女じゃダメか?運ちゃんは男じゃないとな〜。』

その路線バスは豪雨の中、運転席側のワイパーゴムが外れてしまったようで、雨で前がほとんど見えない状況をなり、若い女性運転士はオロオロとするのみで、うまく走らせることができません。ついに運転士はバスを路肩に寄せ、完全に停止させてしまいました。

『皆さま、申し訳ありませんが修理の担当者が到着するまでそのままお待ち下さい・・・。』

と、運転士が車内アナウンスした途端に、年配男性からの冒頭の容赦ない苦情がバスの中に響きました。他の乗客も口々に文句や溜め息の嵐です。酷い雨の中、街からだいぶ離れた郊外での出来事で、私を含めた乗客全員が、どうしたら良いのかわかりませんでした。

“ああ、私どうしたら良いんだろう?困ったな・・・”たまたま一番前の座席付近に立っていた私に運転士のつぶやきが聞こえました。私はその状況を見かねて、ドライバーやスパナなど少々の車載工具を借りて、雨の中、バスのワイパーをなんとかしようと外に飛び出しました。修理できるかどうか自信は有りませんでしたが、以前、自動車の整備士をしていた経験が活かせないかと思ったのです。まず、ワイパーブレードの左右を入れ替えて、大事な運転席側の視界を確保。それからワイパーが効かない助手席側について、サイドミラーが見えるように急遽、タバコを取り出してミラー表面をこすり、水滴が付きにくくする裏ワザを使って、応急処置を完了しました。

『これで、まあ何とか走れるんじゃない?』

豪雨で私はびしょ濡れになりましたが、なんとかバスの故障を直すことができたのです。

『・・・ありがとうございました。私、なんとお礼を言ったらいいのか・・・』

『困った時は助け合いです、大したことじゃないから・・・』

と断ったものの、どうしてもと言われ自分の名前と以前整備士だったことを伝えた後は、私はその出来事を忘れていました。

それから一年近くが過ぎた頃、私の元に見覚えの無い女性からの暑中見舞いの葉書が届きました。読み進めると、あの雨の日の女性バス運転士からのものと分かりました。

“あの雨の日、充分に御礼が申し上げられなくてゴメンなさい。あの日の親切が嬉しく、元気を頂きました。住所とお名前を調べるのにとても時間が掛かってしまいました・・・”

丸くて可愛らしい筆跡が、また私が整備士だったことと名前だけを頼りに住所まで調べ連絡をくれたことが大変嬉しくて、何度も読み返してしまいました。思いがけず私たち夫婦は爽快な気分を味あわせてもらいました。

私の方こそ元気を貰いましたよ。あなたもこれから頑張れ!あなたの今後の幸せをオジさんは遠くから祈っていますからね!

(原文のとおり掲載しております。)