小さな助け合いの物語賞

入選(5編)

素敵な出会い

今野 芳彦

長かった単身赴任も残す所一週間となり、家族のもとへ帰れる喜びはひとしおだ。

仕事帰りにスーパーへ寄り、弁当と牛乳、缶コーヒーを籠に入れレジに並ぶ。

私の前に三人ほど客が並び、先頭の女性が財布を開いた時に一円玉が一個、手元から落ちて床に転がり落ちた。

一円玉を拾うのが恥ずかしいのか、それを目で追ったものの拾おうとはぜず、一円ならいらないわ、といった素振りに見える。

その後に並んだ小学生らしき男の子がそれを拾って「ハイ」と女性に手渡した。

受け取っていながら、ありがとうの言葉も無く、逆に無用な事をしなくても、といった態度でその場を去って行った。

子供がチョコ菓子の代金、四十八円を支払おうと百円を出した時、後に並んでいたおばさんが「僕、偉いわねえ。それ御褒美に私が買ってあげたいけど良いかなあ」と子供の顔を覗き「一緒に計算して下さい」とレジ係りの人に伝えている。

全くの他人に頭まで撫でられ、キョトンとしながら「本当に良いの、ありがとう」とニッコリ笑い百円玉を財布に入れる。中に二百十円入っているのが見えた。

大事な御小遣いなのだ。年配の女性に二度も頭を下げて店を出ていった。

拾ってあげる。当たり前の事でも、回りが良い行いだと認めたら、時には御褒美がある事をあの子は知っただろう。

学校では、知らない人から声をかけられたり、物をくれたりする人には注意をして、と悪者呼ばわりされる中、周りにはそれ以上に沢山の良い人がいる事を忘れないでほしい。

それにしても、世知辛いこの世の中で、素敵な心遣いの出来る方を目の当たりにし、私には到底出来そうもないが、日常の流れの中でサラッと施しが出来る姿は眩しい。

帰路、公園でボール遊びをしている幼児を見ながらベンチに腰掛け缶コーヒーを飲む。

蹴ったボールがあらぬ方向へ飛んで行き、それを取りに行くママ。残された幼児が私の顔を見て「オシッコ」と言う。

驚いたが驚いてばかりはいられず、慌てて隅でズボンを下げてやる。元気な放尿線を見ながら、立ち小便をさせてしまったが、子供なら許されるなと微笑み、ズボンを上げてやると一目散にママのもとへ掛けて行った。

この出来事にママは気付かず、ブランコの方へと手を繋いで歩いて行く。

尻に触れた私の指。染み一つ無い、正に餅肌が指を押し返す心地よさに、息子にもこんな頃が合ったのに、仕事が忙しく感じている暇も無かった。その懐かしい想いを引き出してくれたチビに感謝だ。

親子が遠くで立ち止まり、私に向かって頭を下げ、子供にも頭を押し下げさせた。

私はベンチから立ち上がり、もうすぐ私も家族に会えるんですよ、と手を振る。

(原文のとおり掲載しております。)