小さな助け合いの物語賞

入選(5編)

繋がる情義

岡本 隆太

「てめえ、触るんじゃねえ」

目の前の少年は、これ以上大きく出せない尖った声で叫んでいます。よく遭う境遇に私は目を細める。自分にもこんな時があったからです。

十五歳だった私は市内でも進学校の高校に進みました。ですが自分の描いていた高校生活とは裏腹で、成績順によるクラス分けは伸び盛りの子供たちの心を蝕みます。

次第に学校も休みがちになり、よからぬ友達とも付き合うようになりました。煙草を吸い、喧嘩に明け暮れ、物を盗み売り捌く。

実父が他校の高校教師をしていたことも反抗の根底にあったと思います。父親は毎日帰りが遅く、必然的に家庭も崩壊し自分の帰る場所もありません。進学校の担任教師は既にさじを投げ、私と少しでも関わりになる事を嫌がります。

自分の居場所は既に無く、そうこうしている間に、当然ながら警察の厄介になりました。少年院送りになる事を予想していた私は、担当した警察官にも悪態をつきます。

そんな私を見て当時の担当官はこう言いました。

「お前のことは俺が応援している。いつでも、どこでも、悪いことをしていても良い事をしていても、全て、全て俺はお前を応援しているぞ」

親からも見放され、周りの誰からも見放され、自暴自棄になっていた自分のことをまだ見捨てないでいてくれる。塞いでいた心の内を素直に話すことが出来ました。まじろぎもせずにじっと私の話を聞いてくれます。ここから少しずつ自分が変わっていくのを感じました。

高校三年の秋口に差し掛かった頃です。なんとか人の道を外れずにおりましたが、なにぶん勉強はおざなりです。

「お前、卒業したらどうするんだ。若しよかったら警察学校を受けてみないか」今、自分が在るのはこの言葉があったからです。先日、当時の自分のことを担当して頂いた上司の警察官に聞いてみました。

「いや、当時のお前を見ていたら昔の自分を思い出してな。ぐれた俺を助けてくれたのは、実はお前の親父さんなんだよ。ろくすっぽ学校にも行かない俺を、お前の親父さんは一生懸命に親身になって相談に乗ってくれてな。手の付けられない俺をまともな道に引き戻してくれたんだよ」

鼻白む思いがしました。

「自分の父親は家庭のことも顧ず、仕事だけの人間でした」

「一教師が他人の子供を一生懸命にやるんだ。自分の子供に手が回らなかったんだろう。自分の子供の接し方には戸惑いがあったのかもな。お前の親父さんがいて、俺がいて、そして今のお前がいる。今度はお前が行き場のない子供たちの叫びを受け止めてやる番だ」

初めて毎晩帰宅の遅い父親の実態を知りました。当時の私は、家族、教師、地域及び警察のみなさんの幾重にも重なる見守りを受けていたのです。そのことに気づかず、ただ、ただ、自分の不遇を嘆いていたのです。様々な方々の暖かい見守りがあったからこそ今の自分がいます。

先人の想いに感謝しつつこれを引継ぎ、これからも若く行き場のない情熱を、大きく暖かく受け止めていきたいと思います。

(原文のとおり掲載しております。)