小さな助け合いの物語賞

入選(5編)

おばあさんに感服

増田 真奈美

エレベーターの扉が開くと、ベビーカーを押す若いママさんが立っていた。中にいた私と中年女性三人組は、ベビーカーが入れるように詰めたが、

 

「結構です」

 

と愛想のない若いママさん。

 

扉が閉まり、エレベーターが動きだすと、「せっかく詰めてあげたのに」「『結構です』だって」「こわい言い方だったわね」と、中年女性三人組はぶつぶつ言っていた。確かに、「次に乗るので大丈夫です」と答えてくれれば「そうですか」で済んだが、キツイ言い方だったので厚意が無にされたような気になってしまったのだろう。若いママさんにしてみれば、キツイ言い方になってしまった理由があるのかもしれない。

 

私を含め多くの人にとって、助けることは困っている人に何かをしてあげることと思っている。でも、それは決して一歩的に押しつけるものではない。

 

相手の心に寄り添い、気づき、行動する勇気を持つこと。それを、さらりと格好良くやってのけたおばあさんに出会った。

 

その日いつものようにバスに乗っていると、杖をついた高齢の男性が乗車してきた。一歩一歩前へ進むのも大変そうだ。生憎、優先席は埋まっている。

 

すると、少し離れたところに座っていた青年が、サッと席を立った。青年は席を譲ることに、気恥ずかしさがあったのかもしれない。「どうぞ」と声を掛けることなく、高齢の男性に目配せすることもなく、ただ席を立ったのだ。

 

一つぽつんと空いたままの座席。

 

高齢の男性は足が不自由で、ましてバスが走行中に少し離れた席まで歩いていくのは大変だったためか、その席へ向かう気配はなかった。

 

あの青年が譲った座席は、無駄になってしまうのか。そう思っていた時だった。高齢の男性の近くの優先席にいたおばあさんが、

 

「よろしかったら、どうぞ」

 

と、立ち上がった。

 

腰がかなり曲がったおばあさんだったが、高齢の男性に席を譲ると、ササッと自分は青年が譲った席へ移動。座る時、「ありがとうございました」と深々と頭を下げると、青年は気恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。

 

始終ほがらかな笑顔を浮かべながら、青年が譲った席を無駄にすることなく、高齢の男性も自分も席につくことができるよう上手く仕切ってしまったおばあさんの行動力に感服した。

 

相手の心に寄り添い、気づき、行動する勇気を持つことによって、助け合いの輪が広がる。吊り革に揺られながら、私もあんな気遣いができるよう年を重ねたいと、あたたかい気持ちになった。

 

(原文のとおり掲載しております。)