小さな助け合いの物語賞

入選(5編)

弾ける笑顔

逸見 修

「静かで目立たない子供です。体育が苦手でとくに縄跳び大会が近づくと渋りがちになるので気を付けて見てやってください。」

 

事務引継ぎの時、前担任から聞いた。新任式が終わり教室に入ると子供たちが笑顔で迎えてくれた。しかし、彼女は席に座ったまま私を見詰めていた。

 

子供たちを担任して一か月余り、A子のことが少しずつ分かってきた。どちらかというと勉強は苦手、自分の思いをうまく表現できず友達と時折衝突していた。そのためクラスの仲間から少しずつ孤立するようになった。何が彼女をそうさせているのだろう、心に満たされない何かがある。そう思ったが彼女の口から聞き出すことはできなかった。

 

母親から電話を貰ったのは三学期に入って間もない頃だった。

 

「縄跳びができないので学校に行きたくないと言って困っています。」

 

急いで彼女の家に向かった。長縄跳びの団体戦は彼女のせいで負け、そのことが原因で自信とやる気をなくしたことが分かった。

 

「先生と練習すれば大丈夫、なにしろ縄跳び得意なんだから・・。」

 

自慢げに話す私の顔を見て彼女は笑顔を見せた。明日、練習の約束をして別れた。

 

母親の後押しもあり登校したがどことなく不安そうな彼女。誘って体育館に出たのはお昼休みのことだった。練習には女子数人が手伝ってくれた。

 

「ソーレ、ソーレ。」

 

女の子たちは大きな掛け声で長縄を回した。怖いのとタイミングが掴めない彼女は何度も引っかかったが、手をつないで練習するうちに少しずつ跳べるようになってきた。

 

「Aちゃん頑張れ、あと少し。」

 

友達の応援を受け三日目、四日目、一週間と練習を重ねついに跳べるようになった。

 

「すごいAちゃん、跳べるようになって。」

 

「これなら大会、大丈夫だね。」

 

彼女の周りにはいつしか男子も集まって励ましの言葉を掛けていた。

 

みんなは一人のために、一人はみんなのためにと言い続けてきたことを子供たちはしっかりと受け止めてくれていたのだった。彼女の努力、友達の応援や励ましで跳べるようになった頃、わだかまりや衝突がなくなりクラスが一つにまとまっていた。

 

縄跳び大会当日、クラスのみんなが声を掛け合って跳んでいる姿があった。A子も列に加わり軽やかに跳んだ。弾けるような笑顔で手を振った。思わず私も手を振って応えた。

 

当時小学三年生だった子供たちは今、社会で活躍している。縄跳びを通してお互いに励まし、助け合うことの尊さ・大切さを肌で感じた子供たちは自分の置かれている立場で協力・協働の輪を広げているに違いない。

 

縄跳び大会の時期がくる度にA子の弾けるような笑顔と子供たちの心が一つなっていく姿を思い出し胸が熱くなってくる。

 

(原文のとおり掲載しております。)