小さな助け合いの物語賞

入泉(5編)

笑顔がくれた心の切符

保田 健太

人は、喜びを感じる時も辛く苦しい時も、人の想いや優しさに支えられ生きている。僕もこの二十年、出逢った人達のあらゆる想いに支えられ、一歩ずつ前へ進むことができた。

 

僕は車椅子で生活しているが、小さい頃から外へ出るのが大好きだった。人と接っするのも楽しみだったし、新しい出会いは心が躍った。こんな僕だが、電車にはあまり良い思い出がなかった。でも、そんな僕の重苦しい気持ちを変えてくれた駅員さんがいた。

 

それは、高校野球の観戦に出かけた日のことだった。電車がホームに着き扉が開いて、駅員さんがスロープ板を置いてくれた。「はい、どうぞ。」とても感じの良い駅員さんだった。この駅にはエレベーターがないので、エスカレーターを車椅子仕様にして降ろしてくれる。でも、その間は他の人は乗れない。駅員さんの操作で、エスカレーター三段分が水平になり、車止めの為のストッパーが出てくる特殊仕様になるからだ。混雑している駅なので、文句を言われないかとヒヤヒヤしながら乗っていた。駅員さんは、そんな僕を気遣って、笑顔で話しかけてくれた。

 

事件が起きたのは帰りだった。駅に着いて改札に行くと、あの駅員さんが「おかえり。楽しかった。」と声をかけてくれた。「今度はホームまで上がるよ。」と言って、駅員さんが操作をしていた時のことだ。「こんなに混んでるのに、たった一人の為にエスカレーター止めるのか。自分の子供くらい、自分で担いで上がれよ!」中年を過ぎた男の人が怒鳴った。母は僕の手をギュッと握った。その時、駅員さんは「只今、車椅子の方をご案内しています。皆様、ご協力お願いします。」と大きな声で何度も言ってくれた。そして、僕の肩に手を置いて「大丈夫だよ。車椅子の人が使う為に、こういう設備があるんだから、堂々としていれば良いんだよ。」と笑顔で言ってくれた。ホームに着いてからも、僕達の前を歩いて車椅子のスペースを確保してくれた。そして、電車に乗った僕達に「また、お待ちしています。」と優しく手を振ってくれた。僕達も笑顔で手を振った。この日から僕は、堂々と楽しく電車に乗れるようになった。

 

そして、二十歳になった今、感謝の気持ちと共に、これからの自分について考えてみた。同じことをしても、同じ言葉を発っしても、そこに相手を思い遺る心があるかどうかが大切だ。心があれば、きっと伝わる。その心を僕は受け取り、ためらう気持ちを捨て、新たな一歩を踏み出す勇気が持てた。まさに、僕にとっては明日への切符だった。そして、自分の未来を変える鍵は、細やかな日常の中に隠れていると気付いた。だから、これからも小さな奇跡を信じていきたい。巡り会えた人達からのメッセージと、希望のかけらを握り締め、信じる心をお守りに前へ進もう。どんなに辛く厳しい現実にも、堅く高い壁にも、戦う勇気を持って立ち向かおう。自らの光を求めて。笑顔がくれた心の切符を忘れずに!

 

(原文のとおり掲載しております。)