小さな助け合いの物語賞

本仮屋ユイカ賞(1編)

恩返しリレー

城田 由希子

初フルマラソンの15km地点。右足のかかとだけが痛い。道路脇に寄って確認。皮がめくれて血が滲んでいる。靴擦れだ。ここ最近はトラブルがなかったのでうっかりしていた。靴下を無理矢理二重にして再び走り始める。痛みは、足が着地するたびに少しずつ大きくなっていく。私をランナーが次々追い越していく。なんとしても初マラソンを完走したい。そのためにこれまで練習してきたのだから。

 

栄養補給のゼリーや塩飴はウエストポーチに入れたが、絆創膏を入れなかった。この痛みさえなくなればなんとかなる。給食所の脇でバナナを食べながら座り込んでかかとを見た。

 

「よかったら使ってね」

 

差し出されたのは絆創膏が2枚。

 

「えっ!いいんですか。2枚も。ありがとうございます。本当に助かります」

 

「私も以前、靴擦れで困ったときに見知らぬランナーに助けてもらったから。いつか恩返ししたいと思って携帯してるの。困ったときはお互い様」

 

爽やかな笑顔を残し走り去っていった女性が女神に見えた。すばやく傷口に貼り、恐る恐る走り出す。今までかかとの痛みから意識が離れなかったのが嘘のようだ。靴擦れがどちらの足だったのかを思い出せないほどになった。この地点から、いつものペースを取り戻しゴールを目指して走った。できれば女神様に会ってもう一度きちんとお礼を言いたいと思いながら。

 

私はこの日以来、ウエストポーチには絆創膏を数枚入れている。

 

先日のマラソンの着替え中に偶然チャンスはやってきた。

 

「かかとが擦れそうなんだけど絆創膏持ってない?」

 

と知り合いに尋ねている人がいた。

 

「ごめん、私も持ってくるのを忘れて」

 

私は着替えながら慌てて声をかけた。

 

「良かったら使ってください。私も助けてもらったことがあって。お守りのようにいつも携帯することにしています。いつか恩返しをしたいと思って、欲しい人を探していたというか・・・ちょっぴり大袈裟ですけど」

 

「ありがとう。私も次回から恩返し作戦に参加することを誓います!」

 

私は他のランナーと競走はしない。自己ベスト更新だけが目標だ。私にとって同じレースに参加する人はみんな仲間。

 

そしてボランティアの方々が私のお手本。ランナーが快適に走ることができるようにと活動してくださる姿にはいつも頭が下がる思いだ。せめて私ができるささやかな助けは惜しまないでおこう。困ったときに声をかけられ、困った人に声をかける。助け合いが広がったような気がしてうれしかった。レース前に心がほっとしたおかげで、今回はベストタイムを出すことができた。ありがとう!

 

(原文のとおり掲載しております。)