小さな助け合いの物語賞

入選(6編)

まほちゃんの定期便

米澤 泰子

娘が大学進学で家を離れることになった四年前の春、娘をことのほか可愛がっていた父は「まほちゃんがいなくなると寂しい」とぽろぽろと涙をこぼした。「あと六年したら薬剤師になって帰ってきて、おじいちゃんにもお小遣いをあげるから楽しみに待っててね」と娘が言っても、「夏休みや正月には帰ってくるんだから」と私が慰めても父の涙はなかなか止まらなかった。「それまで生きていられるかどうか…」。心細そうな祖父の手を握りながら娘は「おじいちゃん、大学に行ったら必ずはがき書くからね」と約束して出発した。

 

しばらくして届いた祖父母への第一号のはがきには、腕まくりした自画像に「おじいちゃんおばあちゃん、今日からアパートで一人暮らしです。がんばるぞ!」と書かれていた。美術部に入っていた娘は絵が上手い。それ以来毎週届く、カラフルなイラスト入りのはがきが両親の何よりの楽しみになった。内容は学食のメニューだったり、先生の似顔絵や友達との噂話など他愛ないものだったが、高齢の両親にはそれがかえって新鮮なようで、「まほちゃんのはがきを読むと若返る」と喜んで、いつしか二人はそのはがきを“まほちゃんの定期便”と呼ぶようになった。

 

時にはテストで忙しくてちょっと滞ることもあったけど、この定期便は娘の帰省の時以外はずっと続き、実家に行くと両親はいつもいそいそと娘のはがきを私に見せた。私も、娘のはがきがこんなに両親を喜ばせてくれていることが嬉しくて、そのたびにわが子ながら娘に感謝の気持ちでいっぱいになった。娘も帰省して自分のはがきが宝物のように大切にされているのを見て「はがき一枚であんなに喜んでくれているなんて」と驚いていた。

 

孫娘が薬剤師になって戻る日を待ちわびていた父は、娘が三年生の冬にわずか数日の入院であっけなく逝った。自宅の枕元には、入院した日に届いていた娘のはがきが大切そうに置かれていた。父が苦しまずに安らかに逝ったこと、入院の日に孫娘のはがきで心楽しいひと時を過ごしたであろうことが、悲しみの中にいる家族には何よりの慰めだった。

 

父の死から二年――娘が実習で配属された薬局は偶然にも、父が薬をもらっていた薬局だった。もし父が生きていたらどんなに喜んだろう、きっと大きな菓子折りを持って薬局に挨拶に行って、娘をちょっぴり当惑させたかもしれないと思うとフッとおかしくなった。

 

あて名は祖父母から祖母一人になったけれど、“まほちゃんの定期便”はいまも、母の元にせっせと届いている。「今日、まほちゃんの定期便がきたよ」と嬉しそうに言う母の顔を見るたびに、肉親の思いやりがどんなに人を幸せにするかをしみじみと思う。

 

小さなはがきで父母の老後に元気と喜びを与えてくれた娘に感謝しながら、今度はそのやさしさを社会に広げて、病気で苦しむ人たちの心に灯をともすことのできる薬剤師になってほしいと心から願っている。