小さな助け合いの物語賞

入選(6編)

for youのお弁当

城内 香葉

母と同じ職場に勤めていた女性が、可愛い赤ちゃんを大事そうに抱いて訪ねて来た。すやすや眠る天使のような顔は、時折微笑むように口元がゆるんで、小さな手がピクッと開いてはまた握る。ほんのりミルクの甘い香りがして、お腹いっぱいになって幸せな夢を見ているのかなと思った。こんな小さい時から私も育ててもらったんだ。

 

「あなたのお母さんに随分お世話になってしまったの。つわりで食欲がなくて、ブルーな気分の時に、お弁当を作って来てくれたのよ。食べやすい大きさのサンドイッチや、酢の物やサラダや、あっひじきのおにぎり、あれ美味しかったなぁ。こうして無事に元気な赤ちゃんが生めたのも、あなたのお母さんのおかげなの。」彼女の言葉に、お茶を用意していた母が口をはさんだ。「そうよ、つわりや貧血なんかに負けたらダメよ。元気な赤ちゃんを、じゃんじゃん生んでもらわなくちゃ。日本のためにもね。」母はとても嬉しそうで、何だかはしゃいで見えた。

 

母の作るお弁当には、私も思い出がいっぱいある。高校の時、毎朝お弁当を持って家を出た。母のお弁当は彩もきれいで、季節を感じられたり、同じから揚げでも、食欲が落ちる夏の暑い時には大葉を巻いてさっぱり食べられるようにしてくれてあったり、いつも私の事を考えて作ってくれていた。しかしその頃の私は、それが当たり前だと思っていたし、急に菓子パンが食べたくなると、それを買って食べて、お弁当を食べきれずに残してしまうこともあった。悪いと思うこともなく。

 

ある日、私は寝坊して、慌てて二つ並んだお弁当の一つを持って家を出た。お昼にお弁当の蓋を開けると、何だかいつもと様子が違う。ご飯には昆布やおしんこが乗り、おかずは昨日の夕飯の残り物だ。色合いも悪く何の工夫もないのだ。「あっ、これはお母さんの分のお弁当だ。」次の瞬間、私は気づいた。これは母が自分のために作った簡単弁当なんだと。そして同時に、誰かのために作るお弁当は、母にとって特別なものなんだと気づいた。

 

「for youの気持ちが手を動かすのよ。自分のために作るのは面倒くさいわ。」母はいつも忙しく、こうして自分のものには時間をかけず、その代わりに大切な人のためには手間暇かけて、愛情を注いでくれた。近所の一人暮らしのおばあさんが腰を痛めた時も、友人が風邪をひいた時も、何度となくお弁当を運んでいた母。

 

「辛い事があっても、ちょっとぐらい気が滅入っても、ちゃんと食べればまた元気が出てくるから。食べる事は生きる事。生きる事は食べる事よ。」それが母の口癖だ。ちょっとお節介な母だけど、小さな愛・大きな助けになっている。私もそんなさりげない優しさを与えられる人になりたいと思った。

 

赤ちゃんの目が覚めて、私はこの手に抱かせてもらった。柔らかい感触とぽかぽかした体温が腕中に広がって、とても愛おしかった。