小さな助け合いの物語賞

優秀賞(3編)

夏の思い出

境 真衣

8月、家族で沖縄に行き、トレッキングツアーに参加した帰り道のことです。突然の激しい雨に襲われました。道は、とても狭く、ドキドキしながら外を見ていました。その時反対から、一台の車がやってきたのですが、すれ違うことが出来ず、立ち往生してしまいました。仕方なく、父が車をバックさせ、来た道を戻り始めた時のことです。「ガチャン」という音と共に、車が何かにひっかかり動かなくなってしまいました。右後ろのタイヤが溝にはまってしまったようでした。タイヤを持ち上げて動かそうとしましたが、車は全く動かず、父はあきらめて、どこかに電話をかけ始めました。「どうするの」私は、不安になって聞きました。父は、「業者の人に電話してきてもらうから心配しなくていいよ。」と言いました。雨が、いっそう激しくふり続く中、一歳の弟も怖いのか大声で泣いていました。その時、一台の車が横にとまり、一人の若いお兄さんがおりてきて、父に話しかけてきました。「大丈夫?動かすの手伝ってあげるよ。」父は、「ありがとうございます。でも雨もすごいし、業者も呼んだので大丈夫ですよ。」と答えていました。私は、親切な人だなと思って走り去る車を見ていたのですが、車は、少し行くとまた止まって、中からさっきのお兄さんが降りてきて、雨のなか、走ってやってきました。なんだろうとみていると、「やっぱりお願いだから、俺に手伝わさせてもらえんだろうか。」とお願いするような口調で話しかけてきました。私は、一瞬、自分の聞き間違いかと思いました。手伝ってあげるではなく、手伝わせてくれとお兄さんの方がお願いしているのです。父が、「悪いからいいですよ。」と話すと、「頼む一度だけでいいから、やらせてみてはくれんね。」と更にお願いします。「それではすいませんが、お願いします。」というと、お兄さんは、今度は雨の中どこかに走って行ったかと思うと、近くを走っているトラックを何台かとめて、何人かの人を連れて戻ってきました。「みんなでやれば一発だよ。」と笑いながら車を持ち上げ始めます。すると、ガガガという音と共に車のタイヤが溝から出てきました。私はうれしくなり、父と一緒に御礼を言おうと車を降りたのですが、みんな何事もなかったようにいなくなっていました。私は父に、「なんでお兄さんは、手伝ってあげるではなくて、手伝わせてほしいと言ったの?。」と聞きました。父は、「あの人達にとっては、これは特別な事ではなく、自分がやるべき当たり前の事なんだよ。あんな風になれるといいね。」と言いました。私は、これまでも困っている人を助けてあげたいという気持ちは持っていましたが、助けるという事は何かをしてあげる事だと思っていました。でもそうではなく、自分が何かをさせてもらう気持ちをもつ事なのだということを教えてもらった気がして、とても温かい気持ちになりました。