小さな助け合いの物語賞

しんくみ大賞(1編)

クール!ジャパン

中村 敦

七月も終わりの金曜日の夕暮れの車内。

ラッシュには少し早いのだろうか。

立っている人座っている人、自分のスペースをようやく確保しながら疲れた顔で電車にゆられていた。かく言う私も毎日繰り返される自宅までの長い道のりにうんざりしながら吊革につかまっていた。

大勢の乗降客の中に、大きなリュックを背負った若い女性が二人いた。

(これから登山にでも行くのだろうか?この子たちだけで?どこの山に行くのだろう?この荷物だと何泊くらいするのだろう?オレも最近ぜんぜん山に行ってないなぁ。久しぶりに行きたいなぁ。休みとれるかなぁ。)

彼女たちのおかげで、電車に揺られながら、頭の中で山登りが始まった。遠い自宅までの絶好の暇つぶしが出来そうだった。

何駅か過ぎた頃、突然、怒声が聞こえた。

混み始めた車内で、(五十歳代くらいだろうか)私と同じくらいのサラリーマン風の男が彼女たちに怒っていた。

彼女たちのリュックが何度か男の背中に当たったらしい。

大きいリュックを背負ったまま電車に乗る非常識さを、何度も怒っている。

少し酔っているのだろうか、会社で面白くない事があったのだろうか、怒りはなかなか治まらないどころか、ヒートアップしている。彼女たちは真っ赤になりながら何度も頭を下げていた。

そこにまた、別の声。声の主は、彼女たちの隣に立って本を読んでいた男子高校生。

「おじさん、いい加減に許してやりなよ。彼女たちはこれから、福島にボランティアに行くんだってよ。リュックがぶつかったくらい我慢してあげなよ。」

一瞬の間があき、感心したような頷き声が車内に広がっていく。

彼女たちに怒っていたサラリーマンも「そうだったのか、君たちには不快な思いをさせてしまった。申し訳ない。被災した人たちのために頑張ってきてください。」

しばらくして、拍手が沸き起こった。

勿論、彼女たちに対してのエール。そしてこの若い学生に対しての感銘。更には潔く頭を下げたサラリーマンに対してもあったのだろう。

大震災後、日本人に対する海外の評価が再認識されたという。そんなニュースを見るたびに感じた日本人としての喜び。それを今日生身で感じた。「助け合い」、それは相手を思いやること。日本人が根底に持っている素晴らしいDNA。彼や彼女たち、そして車内にいた皆に感動。クールジャパン!