小さな助け合いの物語賞

しんくみ大賞(1編)

助けるまで諦めない!

吉田 典子

“白い杖を持ったあの人、何がしたいんだろ?”狭い歩道で若い男性が杖と傘と荷物を持ち、右へ左へと方向が定まらない様子。一月の冷たい雨の朝、通勤で急ぐ大人達は足速に男性を避けていた。その時私は高校三年生。志望大学の推薦入試を受ける為『時間の余裕をもって』家を出ていた。これが運命を左右することになろうとは……「あのー。何かお困りですか?」勇気を出して男性に声をかけた。「は、はい。タクシーをつかまえたいんです。病院の母の容体が……」髪は濡れ、青白い顔で困った様子。

私は急に正義感に燃え「ここより大通りに出た方がタクシーが多いです。一緒に行きましょ!」と明るく言った。

男性は「ハァ。」と元気が無い。“三分程の道のりをどうやってお連れするのが良いのかな?まさか一本の傘に二人で腕組んで歩くなんてね”少し考えてから私は男性の手をそっと握り、歩き始めた。“??歩くの遅いな”男性は腰が引けてヨタヨタ。暫く進むと「あの……その前にトイレに行きたくて……」えっ!?辛そうなのはそれだったの!?私は急に焦ってきた。“タクシーに乗せるだけなら五分もあれば済む”と思っていたのに、今からトイレを捜すのはかなり困難。ここは住宅地。交番?公園?駅は遠いし。繋いだ手は雨に濡れて氷のよう。男性は「スミマセン……」としゃがみ込んでしまった。“え〜〜っ!放っとけないよ!”手を離すと、今度は私が右へ左へと方向が定まらなくなった。

少し走り、近くの大きな家のインターホンを恐る恐る押す。「すみません、トイレ借りれませんか?」「はぁー!?」大型犬が吠え続けるだけでそれ以上応答が無い。隣の家、その隣も留守。祈るように一軒ずつベルを押していると、文化住宅からゴミ袋を持ったお爺さんが出てきた。走り寄ってその人の腕を掴み、「トイレ使わせて下さい!急いでるんです!」「あぁ?ええよ。」雨の中お爺さんは男性を抱くように支え、自室のトイレに座らせてくれた。

用を済ませ、何度も御礼を言って大通りへ。気がつくと私は、寒さで震える男性の肩を抱き、二人は一本の傘に入っていた。雨は強まり、なかなか空車がみつからない。”試験開始15分前や”でも私は歩道から身を乗り出し、手を上げ続けた。やっと空車がウインカーを出してこちらへ。「やった!乗れますよ!!」と喜んだのも束の間、頭からびしょ濡れの私達を見て、タクシーは避けるように加速して走り去った。

愕然……男性は眼球の無いくぼんだ目を覆い、「母さん……」と泣き出してしまった。私は何かのスイッチが入ったように車道へ飛び出し「と・ま・っ・て〜〜!!」と絶叫。間もなく若い女性が停車してくれ、男性を病院へ、私を試験場へと運んでくれた。

結果は当然不合格。友達は一言「アホやな」。でも普段の私なら恥かしくて出来ない事が、あの時は人の為に自然と身体が動いたのだ。お爺さんと車の女性は、私に驚いたことでしょう。ごめんなさい。そしてありがとう!